俺の世界には、君さえいればいい。
もっと笑って欲しいとか、愛想良くして欲しいとか、そういうものだったら俺は由比さんだけには見せれるように努力する。
というか、由比さんには見せてきたつもりだ。
「俺は…嫌だ、嫌ですそんなの…。由比さんとこれから色んな経験を一緒にして…たくさん思い出を作りたい」
「っ、だめなんです…、お願いします…っ、ごめんなさい……、」
どうにかしてでも俺から離れてしまいそうな空気感だった。
そうしなきゃ駄目って、俺は何がなんだか全然わからない。
「かなの、」
「…っ、」
順序なんか知るか───。
俺は由比さんが逃げないように両手で肩を掴んで、顔を近づけた。
ゆっくり、だけど逃げられないように。
婚約破棄なんか嫌だ。
俺はこの子を幸せにしたいって、守りたいって、ずっと守ると決めたんだ。
「ゃ、…櫻井くん…っ」
「逃げんなよ、」
「っ、」
その謙虚で小さな唇に向かう。
由比さんはかわいい。
由比さんは、すごくかわいいんだ。
そう思ったら止められなかった。
「だ、だめ……っ!!」
「……、」
「だめなんです…っ、できない、しちゃだめなの…っ」