俺の世界には、君さえいればいい。




たぶん振られたんだ俺は。

気持ちを伝える前に振られて、婚約も破棄になった。


家に帰って騒ぐ妹を無視して、俺は自分の部屋へ向かう。

ネクタイを緩めることすらせずにベッドに倒れ込んだ。



「……なんで…だよ、」



由比さんは、ズルい。

だって俺のことを「嫌い」だと1度も言わなかった。


それなのに離れようとして、拒んで、だけどあんな優しい言葉を最後に贈ってくる。



「まだ…なにも始まってねーのに…、」



これからだった。

普通のスタートとは違った俺と由比さんの始まりだったけど、普通以上のものが着々と作られていたのに。


忘れられるわけないだろ。

由比さんのこと、嫌いになれるわけがない。


婚約者というものは俺にとっては好都合だった。

言葉や態度で表すことが俺は苦手だったから、だけどそんなしきたりがあれば俺は由比さんと関わることが出来たから。



「……っ、」



文化祭、クリスマス、初詣。

由比さんと過ごした初めての季節に写る俺は幸せそうな顔をしていて。


画面の中にある確かな思い出をぎゅっと引き寄せて、今日のことは夢であってくれと強く願った。



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