俺の世界には、君さえいればいい。
しきたり、仕方ない……。
そうだよね、これは仕方ないことなんだよね。
「……そう……です、よね、」
「あ、いや、そういうわけじゃなくて。
…いや、はい」
竹刀袋を肩にかけて、道路側を歩いてくれることだって。
路地裏は危ないからと心配してくれたのだって。
それもこれも全部しきたりであり、仕方ないことだから。
両家の伝統のようなもので、それは代々伝わってきたこと。
「…!危な…っ!」
「きゃ…!」
チャリンチャリンと鳴らしながら通った自転車は、私のスレスレを通りすぎていった。
その寸前に勢いよく腕を引かれて、私はポスッと何かに埋まった。
「…いい加減にしろよ、当たったらどうしてくれるんだ」
───………え?
今のって櫻井くんの声だよね…?
間違いないはずだけど……すごく、低かった。
「…大丈夫ですか。ああやって痴漢したりひったくる輩が増えてるんです」
「…あ、…ありがとう…ございました、」
想像していたよりずっとずっと逞しい腕とか、力強さとか。
寄りかかってもびくともしない身体とか。
「…あの、でも俺は…、由比さんじゃなかったら断ってました」
私を抱き寄せるような形で甘く囁いた彼は、隣クラスの婚約者。