俺の世界には、君さえいればいい。
「んん…っ!」
追い付くのに必死だった。
もう、ただ必死。
それなのにその甘さをずっと求めていたように身体の奥からうずくような気持ち。
キス…、これが、キスなんだ……。
「───…あっちぃ、」
「っ……!!わっ、ね、ネクタイ…っ!」
「ん?ネクタイ?」
櫻井くん、どうしてそんなに余裕そうなの…?
とろんって、なにかがこぼれ落ちそうなくらいのまどろむ目と声をしているのに。
ぐいっと、しっかり留められていたネクタイを緩めた櫻井くん。
今まで緩められることがなかった真面目の象徴のようなもの。
右手で少々乱暴に緩められると、覗いた首筋と鎖骨。
「っ、わっ、あっ、」
あたふた反応する私を据わった目付きで捉えると、ふっと妖艶に笑う。
それがなんとも格好よくて、同い歳には思えなくて、彼は人生を3回くらい経験してる…?ってくらいの貫禄も感じて。
「この先も俺がネクタイを緩めるのは由比さんの前だけです。その意味…わかる?」
「っ…、わ、からない…です、」
「じゃあ…わからせるよ、」
櫻井くんの敬語が取れると色々大変なことが分かった。
だからやっぱり私の心臓のためにも敬語でお願いします……っていう、敬語。
「わから…せる……?さ、櫻井くん…っ?」