俺の世界には、君さえいればいい。
だけどそんなものも今日で終わりだ。
由比さん、山本先輩、由比さんのクラスメイトの後藤さん、そして俺たちの支えになってくれたゆっこ、だっけ。
そして、俺。
俺にはたくさんの人間を守る権限がある。
なにより「助けて」と、一番守らなきゃいけない存在に言わせてしまったのだ。
「櫻井、…程々にしてやるんだぞ」
そんな顧問ですら騙されているこの部は、このままでは終わる。
たったひとりの悪魔のような女に支配されてたまるかよ。
「俺は防具は要りません。まぁ、ハンデってことで」
「え、大丈夫…?また怪我しないようにね?」
ピキッと、こめかみに青筋が立ちそうになった。
もしこれで俺が退部になったとしたら、それはそれでいい。
こんな女を庇うような部なら最初から興味もないし、いずれ終わるってことも分かる。
こいつはわざと反則を起こすよう選手に命令し、八百長を施して、結果ひとりの選手を怪我させたのだ。
それは中々シビアな問題だ。
だからそれを俺が、俺の父親が、もし剣道協会に言ってしまえば、
直接的ではなくとも横山 あいりの名は、どこかしらに悪い噂となって残るだろう。
そうなるとこいつはどちらにしろこの界隈(かいわい)には居られなくなる。