俺の世界には、君さえいればいい。




「先輩、」


「なぁに?」



防具を付け終わって、向かい合った横山 あいりは網目から俺を見つけた。



「残念でしたね、俺がアキレス腱を断裂しなくて」


「…え…?」


「山本 史也(やまもと ふみや)は良い奴なんで。あんたが使うには少し賢すぎたってことですね」


「…な、なんの…こと…?」


「わかってんだろ?」



俺の静かで低い声に、周りの部員は異様な空気を察知したのか顔を見合わせた。

「おい、どうした櫻井」と、ひとりの部員は代表したように聞いてくる。


そんな全員へひとつひとつ説明するのは面倒だから、俺は手にしたスマートフォンの音量を最大にした。



“…ごめん、俺……、わざと…やったんだ”


“…だれの命令で?”


“っ、……横山…あいり、”



これはあの日、山本先輩との会話を俺がスマホのボイスメモに記録していたものだった。

撮ったこと、これを横山や部員に見せること、もちろん山本先輩に許可はとってあるから何の問題もない。


だんだん青白くなってゆくマネージャーの顔は、防具を付けていても分かった。



“ごめん…っ、ごめん櫻井、…どうしても横山はお前が欲しいらしくて、怪我させろって、アキレス腱を断裂させろって……”



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