俺の世界には、君さえいればいい。
『…あの、でも俺は…、由比さんじゃなかったら断ってました』
あのとき、私をもっと引き寄せるように回された手に力が加わった気がした。
いつもより甘い声とか、切羽詰まったような必死さが見え隠れしていて。
なんとも櫻井くんらしくないとも思ってしまったけれど…そんな姿が見れて少しだけ嬉しくて。
でもなにも反応できなかった私も私だ。
家に帰って言葉の意味を分析しようにも、ドキドキが追い越してそんなことをしていられる余裕だってなかった。
「ねぇ、ウワサ聞いた?」
「聞いた聞いた。櫻井くんのことでしょ?みんなわりとショック受けてるよね」
「そうそう」
噂の広まり具合って凄まじい…。
なんにも見てなかった人だとしても、それを聞いてしまえば一気に見ていたように話すから。
これは個室を出ないほうがいい合図だ。
聞き慣れない声は、同じクラスの女の子ではなさそう。
「てかカオリだって櫻井くんのこと狙ってたでしょ?大丈夫なの?」
「狙ってたっていうか、ウチは応援してただけ」
「応援?なんのよ」
「ほら、2年の剣道部マネージャーの横山先輩といい感じってウワサもあったでしょ。あの人だったらみんな納得なのにねぇ」