俺の世界には、君さえいればいい。
彼女が想いを寄せるのは体育教師の丹羽(にわ)。
丹羽先生は大学を卒業して新卒でこの学校の教師になった、女子生徒にもわりと人気な若くて爽やかな先生。
「それにしても誰と抱きしめ合ってたのよ櫻井くん…!もー!こういうときに限って直接きけない人だから困る~!!」
「いいなぁ…付き合ってるのかなぁ、櫻井くんが女の子を抱きしめるなんて……うわぁぁぁんもう失恋だよぉぉっ」
……あれは抱きしめ合ってたとか、抱きしめられていたとかじゃない。
それを知ってるのは私だけだから、やっぱり昨日の場面を生徒たちに見られてしまっていたんだと。
あのときは自転車がスレスレで通ってきたから、櫻井くんが助けてくれたの。
だからあれはそういうことじゃないんだよ。
……なんて、言えるわけがない。
「あっ、ちょっとかなの…!?」
「と、トイレ行ってくるね…!」
ぶわわっと赤くなった顔を見せてはいけないような気がして、教室を出る。
そのまま一番ちかくにある女子トイレの個室に籠った。
「はぁ……ど、どうしよう…」
一息ついて、とりあえず冷静さを取り戻さなくては。