俺の世界には、君さえいればいい。




花壇の前にしゃがんでいた私に背中から腕を回したのは、今にも考えていた大好きな人。

シワひとつない袴姿は未だに直視が出来なくて。



「はは、それってかなのさんしか出来ないリアクションですよね」


「か、かずえくん…!」



ぶわっと顔の熱が上がったのは、「かなのさん」と名前で呼ばれるようになったからという明確な理由もあった。


2年生になってからお互いそうしようって決めて、私も同じように名前で呼ぶと彼は頬を赤らめてくれる。



「主計くん、部活は…?」


「ちょうど休憩中です。ナイスタイミングでした」


「あの、でも…誰かに見つかっちゃったら、」


「もう俺たちの噂は後輩にも回ってるっぽいんで、問題ありません」



ぎゅうっと余計に力を込められる。

そうじゃなくて、誰かに見つかったら恥ずかしいってことを伝えたかったんだけど…。



「かなのさん、こっち向いてください」


「…い、いまは、…だめ、」


「かなの」



耳元で甘く甘く囁いてくる声は、砂糖を砂糖で溶かして煮詰めたんじゃないかと思ってしまう。

いつからそんな声が出せるようになっちゃったんだろう…。


こうして関わっていく度に、ピュアだった“櫻井くん”はどんどん“主計くん”に変化していって。



「───かなちゃん、」


「っ…、」



そう、それは最近だった。

こうして2人きりになると主計くんはこんなふうに呼んでくる。



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