俺の世界には、君さえいればいい。
「櫻井、どうして言わなかった」
「……平気だと自己判断したからです」
「これ以上の負担をかければアキレス腱が断裂してたところだったんだぞ」
「…すみません」
試合は終わって、2位という輝かしい結果の櫻井くんの表情は分からないままだった。
それから片付けが行われて、それぞれミーティングのようなものが開かれて、体育館が広さを取り戻してきた頃。
応援席の端に座る櫻井くんを囲った人数は目で数えられるほどだった。
顧問の先生と、3年生の部長さん、マネージャーの横山さん。
そして応急措置をしてもらった左足を見つめつづける櫻井くんから、すこし離れた場所に立つ私。
「怪我を甘く見るな。下手したら一生剣道できない足になってた可能性だってあるんだ」
「…それでも俺は優勝したかったんです」
「自分の身体を壊してまでも、周りに嘘をついてまでも取る優勝は…嬉しいのか?
俺は怪我した仲間に勝って手に入れた優勝なんか……嬉しくない」
顧問からバトンタッチするように彼を黙らせてしまったのは、櫻井くんに勝って見事優勝を果たした部長さんだった。
そんな彼もまた、まさか相手の後輩が怪我を庇って挑んだ試合だったとは思っていなかったのだろう。
悔しさの残る声だった。