ノート
適当な言葉を吐いて、すたすたと彼を置いて一階に向かって歩いていく。少し空気でも吸いにいこう。
「えっいや、意味がわかんないって」
強いんだか弱いんだかわからない、まっすぐな目とか、優しそうなのにどこか肝が座っているところとか、今の笑いかたとか、なんだか……
いや。
考えない考えない。
ポケットからもう一度、あの育成ゲームを取り出す。
なにかよんだ?
とキャラクターが首をかしげたから、つい、きゅんとして
「ん、どうもしないよ?」
と気持ち悪いくらいにこにこして、我に返った。
「そう、違う、間違いだ。これは、だから。こいつが可愛いから」
つぶらな目が、俺を見つめたり、跳び跳ねたりしているのを見ながら、なぜかなっちゃんを思い出した。
「すずしろ……」
壁にもたれて目を閉じながら、苦しい動悸をおさえる。早く、早く納まれば、いつものように無関心に、無感情に、生きていけるのに。
ある程度動悸が収まるのを待ってから、教室に入り授業を受けた。
その間は特になにもなくて、休み時間にはちょくちょくと、ポケットから取り出したゲームで、丸いやつの世話をしていた。
小さい頃はいろんなやつと通信したり、キャラクターを競ったりしたのに、今じゃブームは去ったのか俺くらいしかやってない。
しかし、この、乗り遅れた感じはどこか嫌いじゃない。
それに、誰かに見つかろうもんならすかさず「かーわいー」とか言われるのでどうせわかっちゃもらえないだろうし。