ノート

「お前本当いいやつだな」
「あっ、私、鞄忘れてた!」
 彼女はそういってすぐ出ていって、俺は一人になった。

不思議と今日は心がきしんだ音を立てることはなかった。

 昔の、家族からの扱いなんて誰にも言いたくないし同情されたくない。学校は俺の居場所で、友達も居て、楽しいところ。だから言いたくない。知られたくないし嫌な気持ちなど持ち込みたくない。
近くの棚には、資料としてならべてある本や漫画があった。

 市販の本や漫画に価値観を否定され続ける気分とも戦ってきた俺は本当に、なんの救いもなく、ノートが、拠り所だったと改めて、何度も、考えた。

俺にとって市販品は敵だ。
そして、それになってしまった。

自分を否定しつづけてきた、あの女の子を悲しい意味で泣かせてきた価値観の塊のひとつに、自分自身の心までもが成り下がった苦痛は、計り知れない。

自分自身にまで否定されてしまった心など、どう直せというのだ。
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