跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「ほら、ここだ」

エレベーターを最上階で降りると、そこには玄関がひとつあるだけだった。どうやらこのフロアには千秋さんの部屋しかないらしい。

重厚な扉を開いて中へ入ると、見たこともない世界が広がっていた。
足を踏み入れただけでパッとついた照明に、驚いて目を見開く。ここはなんのスペースかと問いたくなるほど広い玄関に、自然と感嘆の声が漏れた。

「わぁ……」

そのまま千秋さんに続いて室内に進むと、感動は薄れてなんとなく違和感を抱きはじめた。

「なにここ、モデルルームみたい」

真っ先に案内されたリビングは見晴らしがよく、広い窓から陽の光が存分に差し込んでいるためとても明るい。室内には高価な家具や家電が、センスよく配置されている。千秋さん自身が選んだものなのか、どれも趣味がいい。

ただ、黒色で統一されたこの空間は、どこか冷たいというか固い印象を受ける。

「千秋さん、ここって本当に住んでます?」

初対面であんなやりとりをしたのだから今さら取り繕うまでもないだろうと、遠慮なくそう尋ねると、案の定呆れた顔をされた。

「当たり前だ。まあ、寝るために帰って来るだけになりつつあるが」

やっぱりそうか。この部屋には、あまりにも生活感がない。

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