跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「愛佳がデザインや事務に関する資格の勉強をして、会社に貢献してくれているのは本当に助かっているんだよ。でもね……」

誰に対しても平等で親切な父を尊敬しているが、ビジネスにおいてはいささか弱腰すぎるのは不満だ。

「お父さん、あきらめるのなんていつだってできるわ。もう少し、足掻いてもいいじゃない」

まだ試していない方策はある。私が思いつきもしない打開策だって、みんなで知恵を絞れば出てくるかもしれない。
商品そのものもだが、宣伝の仕方だって工夫できるところはあるのだと、こぶしを握りながら力説する。

「うん、そうかもしれないね。じゃあ、愛佳。こう考えてみてはどうだろうか?」

賛同しつつ、「でもね……」と続くのが父のいつもの誘導の仕方だ。きっと「でもね、加藤もそろそろ限界なんだ」と言われると予想してもう一度遮ったというのに、急に違った切り返しをされて耳を傾けてしまう。立ち止まってしまえば、それまでの勢いは萎えていく。

「このお見合も、加藤製陶の復興の手立てだと捉えてはどうかな」

「手立て?」

「そうだ」とうなずいた父の表情は真剣そうに見えるが、その瞳にはどこかいたずらな色が浮かんでいる。騙されてはいけないと、少しだけ警戒心を高めた。

「大前提として、お父さんは結婚を強要しない。それだけは絶対だから」

「うん」

当たり前だ。一生を左右するのだから、簡単に受け入れられるわけがない。

そもそも私はここへ食事に来たのであって、見合なんて思ってもみなかった。当然心の準備や覚悟なんてものはなく、平常心を保てているか怪しい状態で重要な判断などできるわけがない。

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