跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
挨拶を終えて、早速打ち合わせに入る。
父の用意した資料に目を落とす。初見ではないのに、改めて加藤製陶の実態を数字で示されるとため息が漏れそうになる。ここのところ、ずっと赤字続きだ。

これまで土地代の安い場所への移転や、それに伴って若干規模の縮小もしてきたのに、その効果ももはやまったくない。なんとか従業員の解雇だけは避けてきたが、このままなにもしなければそれも保てなくなりそうだ。

「どんな形であっても、加藤製陶は東京から撤退しないという考えでいいですね?」

ここからは仕事の話だと切り替えたのか、千秋さんの口調が変わる。いよいよだと、私も気持ちを切り替えた。
事前に取り決めた内容の確認だが、この実態ではそんなの不可能ではないかと心が挫けそうになる。

それなのに、千秋さんも隣に控える志藤さんも少しも表情を曇らせない。そんなふたりを前にすると、うまくいく気にさせられるから不思議だ。

「はい」

普段とは違う厳かな口調で、父が答える。社長である父の肩には、ここで働く従業員だけでなく、窯元を働く人たちの生活もかかっている。彼らを路頭に迷わせるわけにはいかないという決意が、その声音に表れているようだ。

「及川としても、加藤ブランド製のタイルを売りにしたい以上、東京から撤退されては意味がなくなってしまう。このギャラリーの維持を確定事項として、今後の提案させていただきます」

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