跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
「愛佳。早く座りなさい」

立ったままでいた私を、父が隣に座るように促してくる。
この場で初対面なのは、千秋さんが連れてきたもうひとりの社員だけだ。彼に向けて、改めて簡単な自己紹介をした。

「及川愛佳と申します。お忙しい中、お越しくださってありがとうございます」

完全に猫を被って澄ました顔をして挨拶をする私を、千秋さんが面白そうに見てくるがあえて気にしない。

社長秘書を務めているというその男性は、志藤(しどう)と名乗った。見たところ千秋さんと同年代ぐらいだ。今後、千秋さんが加藤の件で動く際、スケジュールの調整や様々な手配が必要になるからと、実態把握のために今回の参加となった。

「いやあ、社長の奥さんがこんなに若くてかわいらしい方だなんて。羨ましいですね」

本心かどうかはさておき、志藤さんは明るくにこやかにそう言う。意地悪な千秋さんとは、正反対の人物のようだ。

「お前も、さっさと結婚すればいいじゃないか」

ふたりの砕けたやりとりに、緊張が緩んできた父が「そうだそうだ」と首を振る。

「なに言ってるんですか。あなたに散々こき使われていれば、誰かと出会う暇すらありませんよ」

ふたりはずいぶんと打ち解けた仲らしい。上司と部下というより、友人同士のようだ。きっと、千秋さんとしてもこの距離感は心地よいのだろう。少々失礼にも聞こえる志藤さんの物言いも、軽く流している。

「愛佳さん。今後、私とも連絡を取り合うことがあるでしょう。どうぞ、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

彼らのこの気安げなやりとりは、私や父が必要以上に委縮しないようにという配慮なのかもしれない。おかげでずいぶんリラックスして臨めた。

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