跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
『もう、聞いてるのかしら? 私だってねえ、元気なうちにひ孫を抱きたいのよ!』

孫である俺を、存分にかわいがったのだから十分だろ。さらにひ孫まで望むとは、贅沢な話だ。

祖母の気持ちもわからなくはないが、当事者なだけに面倒で仕方がない。ほかに孫がいないせいで、必然的に子どもの催促は俺だけに集中する。

『はいはい。聞いてますよ』

『まったくもう。小さい頃の千秋は、あんなにかわいかったのに……』

いつの話だという言葉をぐっと呑み込んで、無心で苦行に耐える。

『いいですか、千秋。自力で結婚相手を見つける気がないのなら、私がよい方を見繕ってあげますからね』

『必要ないですよ』

迷惑でしかない。

会社を引き継いで以来、がむしゃらに働いて順調に業績を伸ばしてきた。
祖父の代より秘書を務めてくれていた社員が引退したタイミングで、幼馴染である志藤を他社から引き抜いた。気心の知れたあいつのおかげで、ことが円滑に運ぶようになり、仕事がますますおもしろくなっていく。

いつかは家庭をもって、跡継ぎとなる実子をもうけてというビジョンは持っているが、俺にとってそれは今ではなかった。さらにひと押しと業務の幅を広げていく中で、家庭に時間を割かれるなど惜しくて仕方がない。

同じように志藤まで道ずれにしたのは、若干申し訳なく感じている。ただ、あいつも自らの意志で俺についてきたのだから、休む間もないと不平不満を口にしながらも、今の仕事を楽しんでいるのだろう。

< 83 / 174 >

この作品をシェア

pagetop