跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
『あなたはいつもそればっかり。それでは、こうしましょう』

ニヤリとした祖母の顔に、反射的に顔をしかめる。
どうやら俺は、この一見陽気な祖母に似たらしい。いや、腹黒さを表に出さないだけ祖母の方が厄介な人物だ。
こういう顔をした彼女は、たいていろくでもないことを考えている。

『あと一年の間にお相手を見つけられなければ、今度こそ私が決めるわよ』

ずいぶんと横暴な言い草だ。頼むから余計な真似はしないで欲しい。
まあ、そこまで言わせてしまっているのは、結婚するそぶりも見せない自分に原因があるとわかってはいるが。

ここは折れておくのも手だろう。

『……わかりましたよ』

それはつまり、一年間は祖母の口撃から逃れられる猶予を得られたにほかならない。
期限が来たらまたのらりくらりと躱せばいいかと承諾すると、こちらの気を知らない祖母は満足げに帰っていった。

その日を境に、祖母は〝結婚〟といっさい口にしなくなった。もちろん、それを仄めかす行動も皆無だ。

だから、すっかり忘れてしまっていた。

『約束の期限が過ぎたわね』

唐突にそう言い放った祖母に、意味がわからず眉をひそめる。

『一年経ったから、あなたには私の選んだお相手と会ってもらうわよ』

その話か。思い出した途端に、一気に脱力した。
自分はたしかに彼女と約束をした。面倒だが、話ぐらいは聞かないと引き下がらないだろう。

< 84 / 174 >

この作品をシェア

pagetop