跡継ぎを宿すため、俺様御曹司と政略夫婦になりました~年上旦那様のとろけるほど甘い溺愛~
俺の嫁がかわいすぎる SIDE 千秋
かわいいやつだな。
口を開けばそればかり言いそうになる自身の馬鹿さ加減に、人はこうも変わるものなのかと苦笑した。
どちらかというと異性に対して淡白な自分が、まさか十以上も年下の愛佳から目が離せなくなるなど想定外だ。

胸元にすり寄ってきた愛佳に、くすりと笑いがこぼれる。
彼女の寝顔を眺めているだけで表情が緩む。こんな顔を志藤が見たら散々冷やかしてくるだろうなと苦々しくなるが、今だけはしょうがない。愛しい妻をやっとこの腕に抱けたのだから。

髪に口づけながら、彼女と結婚するまでのいきさつを思い起こした。


突然降ってわいた加藤製陶との話に、面倒だと顔をしかめたのは今からわずか数カ月前の話だ。
及川と加藤の業務提携となれば、たしかに互いにメリットはある。しかし、明らか及川側の負担が大きい。加藤製陶の再建を不可能だとは思わないが、それを手助けしてまで提携する価値はあるのかと聞かれたら、首を縦には振れない。
それでも簡単につき返せなかったのは、話の発端がビジネスではないからだ。


『千秋、あなたいつになったら結婚するの?』

今から一年以上前。いつものようになんの前触れもなく、祖母の菊乃が会社にやって来た。彼女が開口一番発するセリフも、もはやお決まりのもので、こちらもうんざりとした表情を隠すつもりはない。

数年前に伴侶である祖父を亡くしたとき、祖母はさぞ気落ちするだろうと孫として心配してきた。
俺の父である祖母の息子は、自分は及川を継ぐような器じゃないと早々に社長の座を明け渡すと、夫婦そろって海外に移住している。そのため、傷心の祖母に寄り添えるのは自分しかいない。

彼女を取り巻く環境が大きく変わり、精神的におかしくなるのではと気がかりで、頻繁に顔を見せるようにしていたが、すぐさま不要だったと理解した。早々に立ち直った彼女は、それまで以上に精力的に出歩きはじめたのだ。

『今日はね、お着物の新作発表会にお呼ばれして……』
『明日はね、美津子さんとそのお孫さんと遊びに行くのよ』
 
相手は茶飲み友達なのだろう。祖母の交友関係は、若い頃よりも一層広がっているようだ。これなら俺の出番はないなと内心安堵していたが、甘かった。

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