桜が咲く頃に、私は
「じゃあ、今日の分な。俺はもう隠さないから。相手が早春なら、たとえ命を削るキスでも構わない」


また、空が顔を近付けて来る。


確かに、同じ死の運命を背負った私と空なら、残った人を悲しませずに済むと思うけど……でも、それで好きになるというのなら絶対に違う!


「や、やめて! いきなりそんなこと言われてもさ。私はそんなに簡単に切り替えられないし、何より私達がそういう関係になっちゃダメでしょ……お互いに余命を減らすだけだよ。だからお願い。夢ちゃんの為にも、私を好きにはならないで」


昼間、翠にその可能性を指摘されてからずっと考えていたことだ。


私達はお互いの事情はわかってるし、死んだとしてもあの場所や天国で再会出来るとわかっているから、その点では悲しみは小さいかもしれない。


けれど、求めれば求めるほど、二人の余命は短くなってしまう。


この世界で生きられる時間が、あっという間に無くなってしまうことを意味していた。


「……早春はそう思っていればいい。でも俺は、俺の気持ちは変わらないんだよ。お前との約束もまだ果たせてないしな。まあ、なるべく何も考えずにキスするよ。そうすれば、幸せも感じないかもしれないし」


「ご、ごめん……今日の分は、後でね。今はちょっと……」



空の手を解き、私は隣の部屋に戻った。
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