桜が咲く頃に、私は
「……まあ、別に浮気じゃないし。やらなきゃ死ぬんだから、薬みたいなもんだよ。なんなら私達、あっちの世界で大喧嘩してるしね。浮気と疑われるのも心外だわ」


「そうだな。これはそういう感情は一切いらない、ただの作業だからな。中学生か高校生かもわからないガキ相手に何の感情も湧かないし。ほら、スマホ出せよ。毎日会わなきゃならないんだから、連絡を取れるようにしないとな」


「そ・う・だ・ね! 私もあんたが嫌なやつで安心したよ。作業だって割り切れるから!」


スマホのロックを解除し、メッセージアプリのQRコードを表示して天川の手に叩き付けるようにスマホを渡した。


だけど翠は、なんだか納得行かないような様子で頭をボリボリと掻いて、突然爆発したかのようにテーブルを叩いて私達を睨み付けた。


「だーっ! もう! そうじゃなくて! あんた達は想像力がないのかよ! もしも! キスしてるとこを広瀬に見られたらどうするわけ!? 天川、あんたも彼女の一人くらいいるんじゃないの!?」


「いや、だからこれはそういうキスじゃなくて……」


「関係ないでしょうが! 好きな人が別の人とキスしてるってどういうことかわかれっての! あんた達、疑われたくなかったら、会うのはキスの時だけにしとけよ? 私は修羅場になっても助けてやらないから」
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