桜が咲く頃に、私は
「はぁ……広瀬から……ねぇ。早春はどうなんだよ。つまり、あんたが広瀬に幻滅するってことはないってこと? まあ、今が最底辺だからこれ以下はないか。それにしても……なんで早春に告ったのかねぇ。ぜーんぜん釣り合ってないのにさ」


「わかんないねぇ。でも……」


私があのまま死ぬ選択をしなかったのは、広瀬のおかげでもあるかな。


付き合ったその日に私がいなくなったら、悲しむだろうと思ったからさ。


「広瀬がいなかったら、私はここにいなかったんだよね……」


「ん? なんて?」


教室のざわめきに消されそうなほど小さな声で呟いて、翠の耳に届く前に消えた言葉。


「なんでもない」


そう答えてフフッと笑った。


なんでもない、ただのありふれた一日。


だけど今になって思う、死ぬまでの大切な一日。


私は……今まで後悔なく生きていたのかな。


なんて、考えるだけ無駄なことを考えている。


生きる意味がわからないなんて言ってた私が、死が見えたからって何を都合のいいことを言ってるんだろう。


誰が見ても、無駄に、無意味に生きて来たってわかるのにさ。


だけど今更、私はどうやって生き方を変えればいいのだろうか。
< 19 / 301 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop