桜が咲く頃に、私は
「母さん、言ってたもんな。この時の誕生日に貰ったネックレスとフォトフレームだけは、最期まで傍に置いておくってさ」


息子が、孫達が見ているフォトフレームを取って、私の手に持たせてくれた。


私は、あまり動かない手を動かし、フォトフレームに胸に当てて語り掛けるように呟いた。


「お前も……もうここまで……かい? 私と一緒に……いてくれて……」


お兄ちゃん、お姉ちゃん。


私は……あなた達の分まで生きました。


心の中に住んでいる二人と一緒に。


必死に生きたあなた達のように。


でも……もうそろそろ限界のようです。


何度も修理をして使っていた、このフォトフレームの時計も、私の命と同じようにその役目を終えようとしています。


お姉ちゃんが死んだあの日、私は嫌な予感がして起きたんですよ。


23時30分。


目を覚ました私は、慌てて翠さんに連絡をして……枕元にあった手紙を見付けて。


何となく、そこにいるような気がして、駅に向かいました。


お姉ちゃんが笑顔で手を伸ばしていたから、安心して駆け寄っけど……私が手を掴んだ瞬間倒れてしまって。


私は……もう、生きられない。


頑張ることなんて出来ないと、泣きました。


長い長い人生の旅を、ようやく終えることが出来ます。


あの頃のお兄ちゃんとお姉ちゃんは、私の孫よりも年下だけど、こんなしわしわになった私のことをわかってくれるかな。


私……約束通り生きたんだよ。
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