桜が咲く頃に、私は
「じゃあ、おばあちゃんまた明日来るね」


孫達が帰り、息子夫婦だけが病室に残った。


私は床頭台にある二つの小瓶を横目に見た。


今ではもう、粉になってしまったお兄ちゃんとお姉ちゃんの骨の一部。


その中に、それぞれの指輪が入っている。


胸に抱いていたフォトフレームを、何とか両手で掴んで。


ゆっくりと起こすと、色褪せた写真の中に、お兄ちゃんとお姉ちゃん、そして子供だった私の姿が見える。


楽しそうで、これから何が起こるのかさえもわかっていない笑顔。


小さくてボロボロのアパートだったけど、楽しかった日々。


私の大切な家族と過ごした、忘れられない日々。


大好きなお兄ちゃんとお姉ちゃん。


二人は、天国で幸せに暮らしていますか?


私もまた、家族として迎え入れてくれますか?


いつまでも私は、お兄ちゃんとお姉ちゃんの妹だから。


目を閉じて、スーッと一筋の涙が零れた。


ゆっくりと目を開けて、窓の方を向くと、ふわりとカーテンが揺れて。


どこから入って来たのか、ヒラヒラとピンクの花びらが私の胸の上に舞い降りた。


それを摘んで見てみると……桜の花びらだった。


「もう……そんな季節……お姉ちゃん」

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