桜が咲く頃に、私は
「ずるいよ広瀬、あんた絶対にそのセリフ考えてたでしょ。もう」


ついこの間まで、広瀬の方が何か言う度照れていたのに、いつの間にかそれが入れ替わっていて、私の方が顔を赤くしているのがわかる。


そして、私に近付いて来て。


「だから、今日の桜井さんも好きだよ」


まるで子供のような笑顔を浮かべて私を引き寄せると、柔らかい唇で私の唇を覆ったのだ。


胸を締め付けられるような息苦しさに溺れそうになりながらも、広瀬に腕を回して。


辛くなるのがわかっているのに、今はこの快楽に身を委ねたい。


校庭からの騒がしい声をバックに、私は溶けてしまうかと思うようなキスを交わした。


「134」。


幸せな気持ちと、辛い気持ちが私の心を掻き乱す。


ゆっくりと唇が離れる。


名残惜しそうに開いた口を閉じて俯いた私に、広瀬が額を当てて優しく呟いた。







「来年もまた、一緒に学校祭を楽しもうね」








その言葉は、広瀬にとってみれば何気ないものだったかもしれない。


だけど私は……その期待には応えられないんだ。


そう考えたら涙が溢れそうになったけど、ぐっと堪えて。


「さあ、どうかな? 未来のことは誰にもわからないからなぁ。今日は帰ろ? ね?」


手を差し出して、そう言うのが精一杯だった。


私と広瀬の最初で最後の学校祭は、素敵な思い出となって終わったんだ。
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