身ごもり一夜、最後のキス~エリート外科医の切なくも激しい執愛~
もちろん、最初から描けていたわけではない。
私は秘かに、近所に住むアキくんのことがずっと好きだった。
英知先生が跡継ぎになったら……という話題が父から出るたび、私は「でもアキくんもお医者さんだもの」と心の中で取り合ってはいなかった。
でも、アキくんは水澤病院を継がないのだと知った。
後期研修時代から〝若きゴッドハンド〟と呼ばれアメリカに渡った経験のある彼は、もっと広い世界へ行くべき存在だと父から聞かされたのだ。
アキくんとは結婚できない。
今思えばそれでよかったのかもしれない。
告白できる環境になかったから、私はアキくんに「ごめん、星来をそういう目で見たことない」などという決定的な言葉を告げられずに済んでいる。
事務室のカウンターには手のひらサイズの小鉢に入った観葉植物が等間隔で置かれている。
その隙間から、ふわりとしたブラウンの髪の先生が歩いてくるのが見え、私は「あ」と声を漏らした。
職員たちと父もそちらを向く。
「おはようございます。戻りました」
真っ白な白衣に身を包んだ英知先生が笑顔でやって来た。
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