身ごもり一夜、最後のキス~エリート外科医の切なくも激しい執愛~
案の定柴山さんに「愛妻弁当」とつつかれ、本気で恥ずかしくなってくる。
父も「昨日一生懸命作ってたもんな」と満足そうにつぶやく。
昨日作っていたのは正確にはアキくんのお弁当で、これは父が寝た後、深夜に起きて作ったものだ。
昨夜はうまく眠れなかったから。
「昼が楽しみだよ」
手提げを上げ、英知先生は私へウインクした。
英知先生の顔を見て、少し明るい気持ちになれた気がする。
彼に健康でいてもらいたいと願っているのは本当だ。
私にできることはこれくらいしかない。
中郷(なかごう)さんはどう? 新米看護師たちはどんな感じ?」
英知先生の一歩うしろを歩いていた看護師の中郷花苗(かなえ)さんに、父が尋ねた。
二十八歳と若いがベテランと若手の間を取り持てる中郷さんは、看護チームの中核を担っており、英知先生の付き添いをしている。
「がんばってくれていますよ。フレッシュな子たちで院内の雰囲気も明るくなりました」
黒のロングヘアーを丸くまとめ華奢な眼鏡をかけた彼女は、一見厳しそうだが優しい人だ。
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