身ごもり一夜、最後のキス~エリート外科医の切なくも激しい執愛~
水澤病院の建物から五百メートルの自宅には、母の趣味であるガーデンテラスがある。
白い屋根のついた一角は常に日陰で夏でも涼しく、日曜はそこで母とともにサンドイッチのブランチをするのが習慣だ。
今日はこのあと英知先生と約束があるため、ノースリーブのシルクワンピースに着替える。
「いってきます」
日向へ出て前留めのボタンを摘まんで揺らし、胸もとに風を入れる。
汗が冷えて一瞬心地よくなるが、すぐに不快な暑さが襲ってくる。
ざわめきはこの空の青さを真っ黒に染め上げるように胸に迫っていた。
またあの大きな駅へ向かう。
アキくんのマンションのちょうどひと区画先にある、白く光を照り返す低層のレジデンスが英知先生の自宅だ。
あと数メートルで着くというところで、足がゆっくりともつれていく。
「星来ちゃん」
立ち止まったところで声をかけられた。
休日の彼は白衣を脱いでも、真っ白な半袖のシャツに日の光のようなパンツを履いている。
「……英知先生」
空は急に陰り、雷のうめく音が鳴り始めた。