身ごもり一夜、最後のキス~エリート外科医の切なくも激しい執愛~
歩みの遅い私に気づき、アキくんはリビングの入り口で止まってこちらを向いた。
彼ひとりでは広すぎる奥の部屋が見えている。
入り口すぐがアイランドキッチン、真ん中に四人がけのダイニングセット、奥にはテレビに向かいこちらへ背を向けているコの字型のソファーが置いてある。
広さも家具もあと三分の一小さくてもいいと思う。
このマンションの持ち主の先生がアキくんに見合うと与えたものらしいけど、アキくんはどの家具も端っこしか使っていない。
黒やグレー。
どれも暗い色をしている。
目を閉じたらすぐに眠れそうな部屋という感じだ。
「アキくん、これ」
ソファーに着く前に、キッチンで彼を呼び止める。
立方体の形をした桜柄の風呂敷を、紙袋から出した。
濡れてしおれた紙袋は畳んで巾着に入れ、さらにバッグにしまう。
「ありがとう。今夜まで作ってもらえるとは思ってなかった」
アキくんはキッチンの上でゆっくりと結び目をほどき、 顔を見せたひとり用の重箱の蓋に触れる。
何年も前に私が買ったもので、側面には〝アキくん〟と名前が書かれたシールが張ってある。
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