身ごもり一夜、最後のキス~エリート外科医の切なくも激しい執愛~
重箱に手を添えているアキくんの腕から顔を出して、中身をひとつずつ指さす。
「これは芽キャベツの炒め物で、こっちがインゲンとにんじんの肉巻き」
「うん」
「卵焼きは甘いのだよ。ご飯のしらすはお醤油かけてね」
隅にある、魚の形のプラボトルに入れた醤油を「これ」とつつく。
「うん」
蓋をしていたおかげで炒め物の甘く香ばしい匂いがかすかに残る。
アキくんはてりっととした焼き目のおかずたちをしばらく見つめていた。
「食べないの?」
「あとでもらおうかな」
蓋をして、アイランドの奥へ寄せる。
チェストに置かれたデジタル時計は午後七時を表示している。
「アキくん、今日はなにか大事なご用事なの?」
「大事な用事だと思うよ」
なぜか茶化す言い方をされた。
アキくんは全然笑わないまま私をソファーへと導く。
黒い革張りのソファーは大きく、そこへ座る私はぬいぐるみのようなサイズになる。
アキくんも左隣へ座った。
< 8 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop