一途な部長は鈍感部下を溺愛中
これから楽しいよ〜? そうこちらを揶揄うように私の鼻先をつついたゆかりに、私は固まった。
「……瑞稀?」
「え、えっと……か、彼氏? ではない……? かも」
瞬間、ゆかりの笑顔が消える。
「はあ? 何、やっぱりクズ男なのそいつ」
「いや! 違くて……その、明確にそういった話は出てなくて……」
付き合って下さい、と、言ったわけでも言われたわけでもない。
恋人どころか誰かと両想いになることすら初めての私にとって、今の状況をどう捉えればいいのか測りかねていた。
もじもじと煮え切らない私に、ゆかりが呆れたようにため息を吐く。
「好き合ってるのは確かなんでしょ?」
「うん、それは……そう、言ってくれたから」
「なら向こうはもう付き合ってるつもりなんじゃないの」
「そうなのかなあ……」
分からない。大人の恋愛ってそうなの? なんとなくで始まるものなの?
本人に聞ければ良いんだろうけど、なんて言えばいいんだ。それに、そもそも──、
「というかそれ、どのくらい前の話なの? 昨日の話とかじゃないでしょ。今日までの間に進展なかったわけ? 恋人っぽい出来事とか」