ママの手料理 Ⅱ
「ありがとう、すっごい嬉しい!これでいつでも時間が分かるよ!」


「痛み入ります」


0823番は、にっこりと微笑み。


「こちらの丸いボタンを押すと、“パスワードを入力して下さい”という画面が出てくるのですが…。こちらは何の意味もありませんので、押さないようにお願い致します」


実際に丸いボタンを押してみせながら、そう教えてくれた。


「分かった!」


そう答えた私は、スマホを優しく撫でた。


もう、私の気持ちは夕飯なんてそっちのけでスマホ一筋だ。


「それとですね、こちらに指をスクロールして頂くと、」


私に近寄ってきた心優しい下僕が、私の画面を操作する。


すると画面が切り替わり、目の前の景色が映し出された。


「え!?」


「後ろのこの部分と前のこの部分がレンズになっておりまして、写真と動画を撮ることが出来ます」


彼女はそう説明しながら、壁にスマホのレンズを向けてボタンを押した。


カシャッ、と音がして、写真が撮れた音がする。


「え、何この機械凄いね!その写真は見れないの?」


すっかり興奮した私がそう尋ねると、


「…申し訳ございません、こちらで撮った写真や動画は見る事が出来ないのです。ただ、撮った事で満足していただければ、と」


彼女は眉を下げ、すまなそうな顔をした。
< 74 / 273 >

この作品をシェア

pagetop