【短編】今宵、君の腕の中
「なぁ、姶良?なんで、“寒さ”ってあると思う?」
「え…、冬だから…とかじゃなくて?そんなの、わかんないよー…、」
寄り添うような抱擁が、次の瞬間、ギュウッと抱き締められていて。
「―――“あたためあう為の寒さ”。」
「あたためあう為の…?」
「……うん。
『寒さはあたためあう為にある』ってことらしいんだけど、……誰かが言ってた。」
「誰かって、誰?」
クスクスと笑ってると、それは憶えてないけど、って少し慌ててる隼が可笑しかった。
「でも、私もその考え方は好きだな。」
隼が突然話し出したことは、とても幻想的な印象を受けるんだけど、なんだか心地好い安心感を招いてくれる。
「幼馴染みじゃあたためあえないけど…、恋人の今はあたためあえるんだからさ?
もう、戻りたいとか言うなよ?」
「うん。絶対、言わない。」
今宵、君の腕の中。
あたためあえる、
君に一番近い距離―――
【END】
