お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
1 会議室で眠る彼
 お昼の休憩時間が半分ほど過ぎ、昼食をとり終えて食堂から出ていく社員たちの間をすり抜けながら、わたしは自分のデスクへと急いでいた。

 栗色のミディアムボブが揺れ、膝丈のスカートもパタパタと動く。
 首にかかっている社員証の紐がカーディガンのボタンに引っかからないようにと気を付けながら、幅の広い通路を小走りで進み、食堂のある二階から総務課のある三階へ。

 第一会議室のボードに貼ってあるイベントポスターと社内報を今月号に取り替えるようにと、部長に言われていた。
 昼休みの前にやっておこうと思ったのに、うっかりしてしまった。
 先ほど、食堂で隣のテーブルに座っていた営業部の人たちが午後から会議があると話をしているのを聞かなかったら、わたしはそのまま忘れてしまっていたかもしれない。

 気づいてよかった、と戻ってきた自分のデスクの上にあるポスターと社内報を手に取り、ほっとした。

 わたし、野山香菜《のやま かな》はインテリア家具メーカー『TOKINA』の総務課に四月から新人社員として働いている。

 入社して二ヵ月が経ち、仕事にも少しずつ慣れてきたけれど、その慣れが招くものなのか、最近ちょっとだけ気持ちが緩んできてしまったように思う。

 これではダメ、気を引き締めてしっかりしないと。
 社内報は一応、タブレットやパソコンにダウンロードして読めるようになっているけど、忙しくて忘れてしまうことや、そもそも面倒で読まないなんていう人が多いみたい。

 なので、ほとんどの会議で使われることが多い第一会議室に少しでも社内の情報を気にしてもらうため、行事連絡や社内報を張り出している。

 しかしその隣にある第二会議室は商品企画部の人たちがミーティングと称して〝占領〟しているので、ノータッチ。

 働き始めた頃、どうして第二会議室には社内報を置かないのかと女性の先輩社員に質問したら、『商品企画部のテリトリーだから、入りづらいんだよね』と言っていた。
< 1 / 110 >

この作品をシェア

pagetop