お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 この会社で経営本部や役員を除いてどの部署よりも力があると言われているのが商品企画部。
 なんだか恐そうなイメージを持ってしまうけど、たぶん厳しい部署なのだろうと思う。顧客のニーズに合う商品を考えて開発部門に参考案を出し、企画を取りまとめ、営業や販売部門と連携して売上を伸ばす部署だ。
 社内の優秀な人たちが集まっているらしい。

 女性社員から人気を得ているのも、商品企画部の男性たちだ。
 その中でもダントツの人気があるのは、涼本 司《すずもと つかさ》さんという人。

 会社の業績に関わる部署だからか、独特な雰囲気があると感じて、雑務で商品企画部に寄ると緊張してしまうけれど、彼のことはわたしもつい目で追ってしまう。

『TOKINA』の社長子息で、二十九歳という若さながら商品企画部の中心になって活躍している。

 彼が企画リーダーを務めた商品は売れ行きがいい。周りがちやほやしても決して調子にのらないし、仕事には厳しい人だと噂で聞いた。

 きっと、近づいて話かけたいと思っていてもできない女性社員は、たくさんいるのではないだろうか。
 もちろん、わたしも見ているだけ。

 彼は遠くから見ているだけで十分な、高嶺の花のような存在なのだから。

 六階でエレベーターを降り、通路を歩いて第一会議室にたどり着いたわたしは、ドアを開けて中へと入った。

 手に持っていたポスターと社内報を確認しながら、後ろのボードまでまっすぐ歩いていこうとしたが、室内に違和感を覚えて大きな長テーブルの方へ顔を向ける。

 そしてピタリと足を止めた。

 テーブルの脇、椅子を四つ並べたその上に男の人が横たわっている。
 スーツを着ているけど……社員だよね?
 昼寝をしているのか、それとも具合が悪いの?

 大丈夫かな……と、様子を窺うようにその男性に近づいて顔が見えたとき、わたしは再び動きを止めた。
 そして、自分が見ているものが信じられず「えっ!?」と混乱する。

 片腕を曲げて枕代わりにし、長い脚を軽くたたんで寝ている人。その男性はあの、涼本司さんだった。
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