お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
 気持ちを切り替えてソファから立ち上がったわたしは、キッチンのそばの棚上に畳んで置いてあるお気に入りのエプロンを手に取って身に着けた。

 これは、小学生のときに祖母から貰ったエプロンのデザインをそのまま、成長した自分の体のサイズに合わせて作り直してもらったもの。
 赤いチェック柄で、中央部分についているフェルトで作られた大きなクマも当時とほとんど同じ。

 今のわたしが着るには子供っぽいデザインだけど、新しいものよりもこの祖母が作ったエプロンがわたしは好きだ。大学一年生のときに頼んで作り直してもらって、身に着けるとなんだか優しい気持ちになる。料理をするのが楽しくなるんだ。

 祖母は裁縫が得意で、穏やかで優しい人。上履き入れや手提げなども作ってもらったし、他にもいろいろなものを作ってもらった記憶がある。

 父は会社員、母は香水やアロマオイルのセレクトショップを営んでいたので、小学生の頃は祖母の元に預けられることが多かった。
 高校生くらいになってから祖母のもとへ行く機会が減ってしまったけれど、年末やお正月などは必ず会っているし、とても元気でたまに母のお店を手伝うこともあるらしい。

 そこで『香菜も好きな香りだと思うわ』と、選んでくれたとてもいい香りのする香水とアロマを渡してくれる。
 優しい香りなのでオフィスでも気にせず使えるし、友人からも『香菜、いつもいい匂いするよね』と評判がいい。わたしも気に入っている香りだ。

 おばあちゃんのエプロンといい香りがあれば、一人暮らしも頑張れる。
 キュッと、エプロンの紐を背中で結んだわたしは、キッチン台へと向かって夕飯の支度をはじめた。
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