もどかしいくらいがちょうどいい
わたしの第一印象を聞いたら、10人中10人が「優しいひと」って答えるだろう。
特にこれといった特徴もなくて、返答に困ったときに使う常套句だ。
中学時代は一人が好き、みたいな立ち位置で。完全な腫物扱いだった。
隅っこで本とか読んでる地味で目立たない暗い陰キャ、それがわたし。
でも……、本当は友達が欲しかった。放課後とか、土日とか、スイーツ食べたり、映画みたり、ショッピングとかしたかった、勉強会とかしてみたかった……。ザ、青春ってやつを送ってみたかった。
高校入学はわたしにとって、すべてをリセットする絶好のチャンスだったのだ。
喋り方とか、姿勢とか直して、メイクだって研究した。同じ中学の子が進学しないような遠い高校を選んだ。
陰キャだったわたしを完全に払拭して、青春を謳歌して見せるんだーーーー! ──だなんて、意気込んでいたわたしは遠い過去のもの。
「……あ、やばい。Cランク落ちしてる……、周回しよ……」
シャンシャン、いつも通り慣れた手つきで画面の上から流れてくるアイコンを軽快にタップする。
生ぬるい豆乳パックを空になるまで啜って、中身の底をついた音が誰もいない階段に鳴り響く。
『今日も最ッ高に輝いてるぜ! プロデューサー!』
FULL COMBOの文字とともに、流れる推しの声。
わたしは一つため息を落として、スマホを膝に置く。そのまま壁に体を凭れさせ、ぽつりと呟いた。
「……輝くって……なに……」
鈴木楽。高校一年。
このクラスの一軍陽キャみたいなキラキラネームとして生まれて、16年。
既にわたしは挫折しかけていた。