もどかしいくらいがちょうどいい
──ぴこん。
スマホの通知音が、闇落ちしかけていたわたしの思考を遮る。
手に取って確認してみると、ツイッターの通知だ。
画面をタップすると、そこに表示されたのは一枚の画像。わたしがハマってるソシャゲ、アイドルドリームフェス略して『アイドリ』の登場人物、リンくんのコスプレ写真だった。
「はわわ……完成度たっかぁ。しかもこれ、この前のイベの衣装だ……」
ついこの前お披露目されたばかりの新衣装のコスを着たリンくんは、挑発的に舌をぺろっと出して不敵に笑うポーズすら様になっていて本当に現実世界に存在してるみたい。最高。
「『ツミキ』さんやっぱすごいなぁ……」
早速いいねボタンを押して、コメント欄を覗いてみる。みんなそれぞれ歓喜に咽び泣くコメントを綴っている。分かる。
親指でスクロールして流し読みしている中で、ふと目に留まったコメントを見てわたしは固まる。
もものり@1125_momonori
今度のイベ参加楽しみにしてます!
「……ぁ゛」
忘れてた。完全に。
もうすぐ、『アイドリ』のオンリーイベントがあるにも関わらず──わたしの作業が全くと言っていいほど進んでいないということに。
推しCPの新刊出そうと思ってるってツイッターで調子乗って呟いちゃった手前、やっぱ出ませんだなんてお粗末な結果を晒すわけには。でもネタも全然思いつかなくて、ネームすらできてないのに!
「……あーーーー、どっかにお手軽にいいネタが転がってないかなー……転がってるわけないよねーあはは……」
肩を落として、ため込んだ息を吐き出した、その時。
「はあ……」
「はあ……」
ビクッ、と地上に打ち上げられた魚みたいに身体を飛び上がらせて、辺りを見回す。誰もいないはず……だけど……まさか。
なるべく音をたてないように、ゆっくりと手すりから身を乗り出して、下の階段を見下ろすと──そこには、地獄があった。
「ひっ」
ゴゴゴゴゴゴゴ、と彼の背景にそんな効果音が付きそうなほど、重苦しい雰囲気に包まれていた。
地獄だと言って差し支えなさそうな亜空間が手すりを隔てて下の階段に展開されていた。
思わず悲鳴を漏らしたわたしは、すぐさま口を押えて身を潜めようとしたが、時すでに遅し。
物音すら立てずにこちらを見上げた視線の──あまりのどす黒さに震えあがる。
何、何なの!? 地獄の死者!? 死神!? 闇落ちキャラ!? こ、怖っ!
でも、なんか見覚えのあるような……顔……の気が。……あ、もしかして。
「涼森さんに変態認定されてた人……」
ぴしり。と、まるで空間に亀裂でも入ったような間が流れた。
……あ、今完全に地雷踏んだ気がする。
彼──成瀬善は、目を見開いたまま硬直して、それから力なく頭を垂れて、乾いた笑いと共に呟いた。
「……死ぬしか……」
「やめて早まらないで! すいません前言撤回するのでそれだけはご勘弁を!!」
それが成瀬くんとの一番最初の会話だった。