仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


「穂乃果」
「はい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」


 全てを失った穂乃果に結婚という選択肢を与えてきた玲司、お金の為の結婚。なのにこんなに優しく抱かれて、悔しい。この男のせいといったら大げさかもしれないけれど、でも、工場は倒産し、父はこ男の会社から帰ってくる途中で死んだ。それなのに抱かれて気持ちいいと感じてしまった自分に腹が立つ。腹が立って、悔しくて背中に感じる熱に気づかれないよう静かに声を押し殺して泣いた。もう泣かないって決めたはずなのに。我慢しようと目線を上に向けてみるが瞳の端から流れ落ちる涙はなかなか止まることはなかった。


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