翠も甘いも噛み分けて
 動物並みに優れた翠の嗅覚に、幸成は未だ固まったままだ。周囲のクラスメイトは、翠たちに構っている暇があれば英語の宿題を片づけようと、各自自分の席でノートを開いている。なぜか翠のクラスの面々は、自宅で宿題をする人間がほとんどいない。それだけに、授業終了後の十分間、いつもみんな必死だった。翠はなぜ自宅で宿題をきちんとしてくるか、それはたった十分の間に宿題を片づけられないからだ。それに休憩時間はなにげにあっという間に過ぎてしまう。翠はその貴重な短時間を宿題に追われるのが嫌だった。

「よく分かったな。そんなに匂うか? 今朝、早起きしてクッキー焼いてみたんだ。腹が減ったらなにもできないから。あとで分けてやるからノート貸して」
「え、クッキー? 食べる食べる! いいよ、間違えてたらごめんだけど」

 こうして交換条件が成立し、翠はノートを貸す代わりに、幸成お手製のお菓子に在りつくようになった。
 お菓子を渡されるのは朝のホームルームが終わったタイミングや昼休みなど、特に決まってはいない。けれど幸成は、ほぼ毎日手作りのお菓子を持ってきて、それを翠に分けてくれた。



< 18 / 51 >

この作品をシェア

pagetop