天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 氷のように冷えた瞳。有無をいわさぬ厳しい態度。彼に、あんなふうに冷徹な面があるとは知らなかった。

 私にはずっと優しい人だったから。

 でもどうしよう。

 流樹は守らなきゃいけないが、乃愛の親権を要求されたら――。

 恐怖で体が震え、腕に鳥肌が立つ。

 落ち着かなきゃ。

 今考えたところでどうにもならないんだから。

 こぼれた涙を拭い、両手を上げて大きく息を吸う。
 落ち着いてと自分に言い聞かせながら、ゆっくりと胸に澱んだ空気を吐き出す。

 さあ、元気をだそう。
 大丈夫、私は離婚したかったんだもの。


 リビングに戻ると、サトさんに見守られながら、乃愛はベビーベッドの中で寝ていた。

「すぐにおねむになってしまいましたよ」

「お出かけで疲れちゃったかな」

 用事があれば呼んでくださいと言って、サトさんはリビングをあとにする。

 サトさんがかけてくれたのだろう、リビングには静かなクラシックが流れている。音楽の力も相まって、乃愛の小さくて丸い額を撫でていると心が落ち着いてくるようだ。

 乃愛の存在だけが私の心の支え。
 この子を守るためならなんだってがんばれる。
< 101 / 286 >

この作品をシェア

pagetop