天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
「わかった。乃愛をお願いね」

 乃愛をサトさんに預けてリビングに行く。

 郵送か弁護士を通すかと思ったのに直接来るなんてどうしたんだろう。

 私から会いに行くならまだしも、彼はもう私の顔なんて見たくないだろうに……。

 とにかくちょうどいい機会だから調査会社の件を謝らなきゃ。
 啓介さんが調査会社を訴えるにしても、鵜呑みにした私にも非はあるんだもの。

 リビングの前で立ち止まり、深呼吸をした。

 せめて最後は笑顔で別れたいな。

 でも今さら無理か、と自嘲した。いくらなんでも勝手な言い分だ……。

 それでも笑顔、笑顔と自分に言い聞かせた。
 どんなひどい女と思われても、笑顔の私を記憶してほしい。

 疑心暗鬼になって気持ちが揺れて、不安に襲われた夜も含めて、啓介さんと過ごした日々は、やっぱり幸せだったから。

 

 扉を開けると、啓介さんは窓際に立って庭を見ていた。

「いらっしゃい」

 振り向いた彼は「流樹に事情を聞いた」といきなり言った。

「えっ、流樹に?」

 昨日会ったばかりなのに、もうどこの誰か突き止めたの?

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