天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
「鈴本小鶴の子どもは俺の子じゃない」

 またしても唐突に啓介さんはそう言った。

「わけあってときどき様子を見に行っているのは事実だが、それだけだ」

「じゃあ、彼女が私に言った話は嘘なの?」

「彼女がなにをどう言ったかわからないが、少なくとも子どもの父親は俺じゃないし、彼女と俺は男女の仲じゃない」

 お通夜での彼女の冷ややかな笑みが脳裏に浮かぶ。

 啓介さんを信じるか、彼女を信じるか……。

「いつかきちんと説明する。だが、今はまだ言えないんだ」

 彼の目は真剣だ。

「言えない理由も聞かせてもらえないの?」

 啓介さんはゆっくり息を吸い「君のためだ」と言う。

「私?」

「知れば君は重荷を背負うことになる。誰にも言えず、知らないと嘘をつかなきゃいけない。君のお母さんにもサトさんにも」

 わかるような、わからないような話である。

「知らなければ、正直に知らないと答えられるからっていう意味?」

 知っていて言えないのはつらいから?

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