天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 親同士の弾む会話を右から左に流し、手持ち無沙汰な私も箸を取る。

 今日はせめて食事だけでも楽しもう。

 あらためて視線を落としたテーブルの上には、繊細で手の込んだ美しい料理が絵画のように並んでいる。

 見ているうちに、なかったはずの食欲が湧いてきて、さっそく箸を伸ばす。

 口に入れたのは鯛のお刺身。プリプリして噛むほどに旨味が広がってくる。
 おせんべいのような粒がついた車エビの天ぷらに抹茶塩をつけてひと口。食感と香ばしさの中から最後に出てくるエビの甘味。
 美味しいー、と密かに唸った。

 茶碗蒸しには私の好きな銀杏が入っている。煮穴子はお箸で持つのがやっとというくらい柔らかくてトロトロだ。さすが料亭だわと惚れ惚れしてしまう。

 この素晴らしいお膳をいたけるだけで、来たかいがあったというものだ。

 満足しながらお茶でひと息つく。

 ふと視線を感じて顔を上げると、啓介さんが私を見ていた。

 彼は目を細めてクスッと笑う。
 えっ……。
 もしかして、一部始終を見ていたのだろうか。

 羞恥心が込みあけて、頬が赤くなる。
 てっきり、親同士の話に耳を傾けていると思ったのに。私ったらもう……恥ずかしすぎ。

 でも、もう二度と会わないんだもの。
 気にしないようにして箸を進めた。


 食事が終わると、うちの両親と彼に付き添ってきた彼のお母様は早々に席を立った。

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