天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 残ったのは私と啓介さんのふたりきり。静かになると、忘れていたはずの緊張が戻ってくる。

 あらためて運ばれてきたお茶と和菓子を前に、背筋を伸ばして視線を落とし、テーブルの下で拳を握った。

「料理、おいしかったね」

 ハッとして顔を上げると彼が微笑んでいる。

「あ、はい。とっても」

 食べだしたら止まらず完食してしまった。
 今さらのように恥ずかしくてもなり、シュンとしてうつむいた。 

「俺も全部平らげた」と彼が言う。
「料理長も喜んでいると思うよ」

 顔を上げると、彼の優しげな瞳と目が合って、つられたように笑顔が浮かぶ。

「そうですよね」

「君は食べ物の好き嫌いはないの?」

「はい。なんでもおいしくいただけます。あ、昆虫食はダメですけれど」

 つい先日父が患者さんにもらってきたイナゴの佃煮が脳裏に浮かび身震いする。父と弟はうまいと言って進めてきたけれど、私と母は逃げ回った。

「あ、すみません。思い出してしまって」

 一瞬固まった啓介さんは、顎を上げてあははと笑う。
< 15 / 286 >

この作品をシェア

pagetop