天才脳外科医はママになった政略妻に２度目の愛を誓う

　鈴本小鶴はなぜ、そこまでするの？　お父さまを恨むならまだしも、彼女が啓介さんやお兄様に酷い仕打ちをするのはなぜだろう。

　様々な疑問を抱えながら啓介さんをジッと見た。

「以前、父の浮気を知った母は精神的に不安定になり――」

　啓介さんは苦しそうに顔をゆがめ、大きく息を吸う。

「小鶴の母を、追い回し、執拗に……」

　ただならぬ彼の様子から、言い知れぬ不安がみてとれた。

　聞いている私も鳥肌が立ってくる。

　カフェで会ったときの島津のお母さまを思い出す。あのときお母さまは私の話はいっさい聞いていなかったと思う。とても思い詰めた様子に恐怖すら覚えた。

「すみません。離婚する以外……島津家の、闇の――」

　彼は見たこともないほど辛そうで、声もかすれて。見ていられない。

　もうやめてと声をかけようとした時だった。

「啓介さん無理に言わなくていいわ。大丈夫よ、もう十分わかったから」

　母が心配そうに声をかける。

「今の話も、私たちは聞かなかったことにしましょう」