天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 ところが彼は一切の資産を自分のものにはせず、残された私たち家族の名義にして自分はあくまでも名ばかりの理事長だという立場を貫いていたのだ。

 どんな気持ちだったんだろう。

 それでも帰らない私を彼はどう思っていたんだろう。

 簡素化されて誰が見てもわかりやすくなった書類を見る度に、いつかくる離婚の日を予測していたのかなと想像したりする。まるで残った私のためにそうしてくれたのかと。

 養育費として毎月振り込まれる使い切れないほどのお金も……。

 啓介さん……。



 次の日は休み。

 私は乃愛を連れて瑠々と待ち合わせをした。

 場所は料亭『富紅』。瑠々の本来の実家。というのもひと月前に流樹はついに料亭を取り戻したのである。

「よかったね瑠々。懐かしいなぁ」

「大変だったんだよ、やつら本当にセンスなくてさ」

 瑠々たちの父が急死し、残った借金の肩代わりする代わりに料亭を伯父に渡していた。まだ子どもだった流樹と瑠々は伯父の要求に従うしかなかったのだ。

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