天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
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タクシーから見る久しぶりの東京は少し風景が変わっていた。
あったはずの店がないだけかもしれないが、やけに他人行儀に感じる。まるでここはお前の居場所ではないといいたそうだ。
どこか寂しそうに感じるのは、秋に向かって街が落ち着いているせいばかりではないだろう。別に逃げだしたわけじゃないが、帰国が憂鬱だったのも事実。そうなるからには心のどこかに後ろめたさがあるんだろうと自嘲する。
だが自分で決めた道だ。後悔はない。
ちらりと腕時計を見た。
時刻は午後二時。これから小鶴に会い、明日は京都に向かう。
母の様子を見に行かなければ……。
一週間ほど前母から電話があった。
『京都に帰るわ』
「そうか……。わかった。会いに行くよ」
『ごめんなさいね啓介。情けない親で』
電話口で泣き出した母を慰め電話を切った。
母には母の妹が付き添ってくれている。兄の話では落ち着いていると言っていたが、殻に籠もり過ぎないかが心配だ。
とにかく信頼できるドクターに診てもらえるよう手筈を整えよう。
あれこれ思い巡らしながらタクシーを降り、待ち合わせの古びた喫茶店に入った。
まずはなぜこうなったのか確かめないといけない。
「久しぶりー」
意外なほど明るい笑顔で現れた小鶴はひとりだった。
「ケガは? どこもなんともないのか?」
小鶴は首を指差した。
「もうなにも見えないでしょ。数日は赤くなってたけど、それだけ」
「そうか、済まなかったな」
小鶴はフッと鼻で笑う。