天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 彼女が話をしている相手は、いるはずのない啓介さんだった。

 今日の講演会は脳外科に関係する内容なのでいてもおかしくはないが、あのとき彼は、一週間ほどでまたアメリカに帰ると言っていたし、また日本に帰ったら連絡をくれるとも言ったはず。

 公園で再会したときから三週間近く経っているのに、なぜここにいるの?

 どうして連絡してくれないの?

 アメリカに帰らなかったの?

 ふいに、啓介さんと目が合って、とっさに背を向けた。

 見てはいけないものを見てしまった気分だ。予想外の彼の登場に慌てふためいて、荒く高ぶる胸に手をあて、ゆっくりと息を吐く。

 落ち着かないと。

「山上副理事長」

 声をかけてきたのは、山上の勤務医、麻酔科医のドクターだった。

「今日は珍しいですね」

「ええ、たまにはこういう席にも顔を出そうかと思いまして」

「それはうれしいな。副理事長とこうして飲む機会ができて光栄です」

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