天才脳外科医はママになった政略妻に２度目の愛を誓う
　啓介さんがいない前提で考えていたが、彼がいたのでは到底無理だ。どうしても意識が彼に向かってしまう。

　自分の新たな恋どころの話ではない。真知子先生の他愛ない発言で慌てるように、彼の一挙手一投足が気になり、その都度落ち着かない気持ちを持て余しそうだ。

　まいったなぁ。

　いっそ、乃愛を連れて私が渡米しちゃおうか。なんてバカなことを考えて小さく笑った。

　逃げてどうするのよ。

　この前だって、乃愛に会って欲しいって自分からお願いしたのに……。

「莉子」

　聞き覚えのある声にギョとして振り返ると、啓介さんがグラスを持って立っていた。

　質のいい絨毯が足音を消したらしい。こんなに近くにいるのにまったく気づかなかった。

「水だよ。大丈夫か？」

　差し出されたグラスを受け取る。

「ありがとう」

　啓介さんは私のすぐ隣のソファーに座った。

　それでなくても酔っているのに、胸の鼓動はさらに激しくなる。

　少しでも落ち着くよう、受け取った水をゴクゴクと飲んで大きく息を吐く。
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